第5回は、11月13日(金)に開催される第26回国際コミュニケーション・フォーラムでコーディネーターを務める富田英典さん(関西大学教授)をご紹介します。
11月13日(金)、第26回国際コミュニケーション・フォーラムが開催されます。今年のテーマは「AR技術が拓くモバイルコミュニケーション」。今回のインタビューでは、世界的に注目を集めつつある「AR(拡張現実感)技術」とその可能性についてフォーラムでコーディネーターを務める富田英典さん(関西大学教授)に話を伺いました。
―まず、フォーラムの趣旨を教えてください。
今年のフォーラムでは、「AR技術」という最新技術に注目します。現在、モバイル業界では「セカイカメラ」(ソフトバンクi-phone)や「実空間透視ケータイ」(KDDI研究所)など「AR技術」を駆使したアプリケーションが発表され、注目を集め始めています。それは、この技術の発展と普及が従来の携帯電話というメディアの姿を大きく変える可能性があるからです。また、その変化は私たちの日常生活にも影響を及ぼします。この技術が与える変化は非常に大きなものです。この技術を使えば、携帯電話を使って「リアル空間」に「バーチャル情報」を重ね合わせることが可能になります。
歴史的には、携帯電話は通話機能からスタートしました。それが、メール・写真・動画・TV・インターネットなど様々な機能を搭載し、マルチメディア化してきましたよね。そこに、新たに言わば「モバイルAR」が登場したわけです。しかし、これは従来の携帯電話からのネット利用とは異なります。では、どこが異なるのか。また、今後どのような新しい携帯電話サービスやモバイル・マーケットを生み出す可能性を秘めているのか。そして、私たちの社会生活にどのような変化が生まれるのか。興味は尽きません。そんなAR技術がモバイルコミュニケーションに与える変化や可能性について現場の知見や学際的な視点を交えながら考える。それが、今回のフォーラムの趣旨です。
―フォーラムの登壇者をご紹介ください。
「モバイルAR」の現場の最前線を統括する吉井英樹氏(ソフトバンクテレコム)には、「セカイカメラ」について。また小林亜令氏(KDDI研究所)には「実空間透視ケータイ」について最新動向を基調講演で発表して頂きます。
また、この「AR技術」に類似する考え方は小説やアニメの中にすでに描かれてきました。そこで、そんな先見性のある作家の一人として渡辺浩弐氏にも基調講演を依頼しました。「リアルとバーチャルが融合する世界について」がテーマです。
パネルディスカッションでは、「空気の読めるケータイ」の開発を手掛けている佐藤一夫 氏(NTTドコモモバイルデザイン推進室第一推進担当部長)、SF作家でありアメリカ文学者の巽孝之氏(慶應義塾大学教授)にご登壇頂き、基調講演者とともに議論を深め、新しい技術の今後のビジネス展開とその可能性、また社会への影響などについて縦横無尽に議論します。
―フォーラムの見所はズバリどこにありますか?
このAR技術が私たちの現実認識をどのように変えていくか。そこに注目しています。「リアル空間」に「バーチャル情報」を重ね合わせるということは、私たちの現実空間が二重の構造を持つことを意味します。そのような状態が「AR=拡張現実」と言われています。要するに、もう一層世界が構築されるわけです。たとえば、携帯電話をかざせば、ゲームのキャラクターと同じ空間で生活することができてしまう。AR技術はインターネットを縦横に駆使する「デジタルネイティブ」の現実感覚すら超えていく可能性を秘めています。今後この技術がどう展開していくかを登壇者や会場の皆さんと一緒に考えていきたいですね。
―先生の研究と今回のフォーラムはどのような形で関わりますか?
私の専門はメディア文化の社会学的な研究です。たとえば、電話風俗やネット恋愛などを研究してきました。ポケベル、ゲーム、ケータイ、インターネットなど新しいメディアが出現するのに伴って、使い手側の情報行動は常に変化を重ねてきました。
今までは「リアル」と「バーチャル」を分けて、「オタク」や「腐女子」が議論されてきましたが、これから「リアル」と「バーチャル」の境界線がますます不明確になる。それが「リアル」にどのような影響を与えるのか、まさに今回のフォーラムのテーマが、私の研究領域です。
そもそも日本語の「バーチャル」という言葉は一般的に誤解されてきました。「仮想の」という訳語が一般的な解釈ですよね。ですが、英語の「Virtual」は、一義的には「事実上の、実質上の、実際上の」という意味です。「仮想の」の英語は「Supposed」です。たとえば、インターネット空間で使われる電子マネー。電子マネーは、見た目は紙幣や硬貨の形はしていません。でも実際に通貨として通用している。それが、本来の意味での「バーチャル」です。一般的な用法とは異なり、「リアル」と「バーチャル」は対概念ではありません。では、「リアル」と対になる概念とは何か。AR技術の社会的影響を研究しながら、私たちにとって「リアル」とは何かを考えています。
またAR技術が悪用される可能性もあります。これまでも新しいメディアが普及するときもそうでした。その際、対策が後手に回ったのも事実です。ですが、新しい技術や現実感覚を「倫理的におかしい」と理解しようとせず、思考停止しても何も問題は解決されません。技術が社会に応用される際には、必ず正の側面と負の側面が生じます。事件が起こる可能性があるならば、事前に徹底的に研究し、先手を打って対策を講じるべきです。私はそう考えています。AR技術が社会にとっていい形で普及して欲しい。そのために研究者として果たすべき責任とは何か。そんなことを考えながら今回のフォーラムに臨みます。
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