――6月14日(土)、15日(日)に第25回学会大会が駒澤大学で開催されますが、先生は実行委員長でいらっしゃいます。テーマは、「世界コミュニケーション年から25年-グローバルメディアの今後25年を展望する」となっています。
今年は情報通信学会創立25年を記念するということで、この25年を振り返ることはまず必要ですが、これから先はどうなるか、どうするべきか、ということにも同じウエイトを置きたい。そこで情報通信学会並びに国連の世界コミュニケーション年のコンセプトからこのようなテーマを導き出そうとしたわけです。そう捉えた先に、まず間違いなく言えるのは、「世界コミュニケーション」という言葉の中の「世界」はまさにグローバルになる。「世界」というものは、国と国を結んだものではなく、国境というものがなくなる。どこの国に相手の人がいようと自由にやり取りができる。それを現す現在のキーワードは、「グローバル」です。
もうひとつのキーワードは、「コミュニケーション」ではなく、「メディア」ですね。
当然、コミュニケーションは重要で、我々人間同士のコミュニケーションが今以上に重要になることは間違いない。ただ、それで終わりではなく、意欲と力のある人は、マスメディアの代わりに自ら情報発信ができるようになる。それを綜合し、編集して、新しい知識・知見を導き出していく活動が増えてくる。これは「コミュニケーション」を超えた概念で、それを現す言葉としては、「メディア」が一番近いと思います。そういう意味で、「グローバルメディア」というものを25年先のビジョンのひとつとして掲げてみました。
学会大会では、前ITU事務総局長で、現在は早稲田大学客員教授の内海善雄さんが基調講演をされますね。
内海先生は、日本人として初めて国連の専門機関であるITUの事務総局長につかれた方です。伝統的な意味での電気通信に関する国際秩序のあり方、世界の先進国、途上国の利害のぶつかり合い、料金や規制、技術標準など色々なルール作りを総合的に見てこられたし、積極的に動いてこられた。特にITUが国連の専門機関になった後、インターネットに関する国際秩序をつくることに努力されてきた。過去の話、現在の話について深い経験と知識をもっておられるので、それをベースとして今後どうあるべきかを話していただきたいと思っています。
シンポジウムのパネリストはどのように選ばれたのですか?
パネリストは、放送業界、インターネット業界、携帯電話のコンテンツを主に扱う事業者の中で、特に意欲的にコンテンツ作りをしている会社から選びました。放送業界からは日本テレビの田村和人さん(編成局デジタルコンテンツセンター長)。伝統的放送ビジネスが新しいデジタルコンテンツの方向に今まさに展開しようとしている。彼はその責任者です。インターネットの会社としては、純粋に日本国産で意欲的にやっておられる楽天の森正弥さん。彼は楽天技術研究所所長で、単に現在の話ではなく、今後どうするかというお話をしていただけるだろうと期待しています。それから携帯その他の新しいコンテンツ、あるいは単にコンテンツと呼びにくいような新ビジネス展開をしているガイアックスという非常に面白い会社の代表執行役社長CEO上田祐司さん。それから政策との関連や、学術的な視点から元郵政省の慶應義塾大学メディアデザイン科教授中村伊知哉さんにパネリストを、そしてまとめ役として慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所の菅谷実教授に司会をお願いしました。パネリストにはそれぞれご自身の立場から自由に今後の方向や課題を語って頂きたいと思っています。
今回の学会大会の招聘校駒澤大学のグローバル・メディア・スタディーズ(GMS)学部もまた、そのようなグローバルに展開するメディアについて学ぶ場として新設されたそうですね。
駒澤大学はもともと禅宗の総本山がつくった大学で、たいへん古い大学です。その駒澤大学が時代の流れを大きく見て、方向転換をしていこうとする中でつくった学部がGMS学部です。グローバルな環境の中で情報を発信し、交渉していくための広義のメディアとして、英語、インターネットや携帯電話、これから出てくるもっと新しいメディアを研究し、教育する、というのが、GMS学部の目標です。したがって学部の中ではインターネット、コンピューター、英語に関する講義はもちろんですが、それと組み合わせたゲームも含む広い意味でのメディア関連のビジネスについての講義を主力として教育カリキュラムは組まれています。これから若い学生に学んで欲しいことを凝縮してあります。
先生ご自身の専門も、「デジタル・ネットワーク環境における著作権の取り扱い」ということで、これもまたグローバルなテーマですね。
インターネット上のデジタルコンテンツを、つくり手を、どうやって経済的に保護するか?
その手段として著作権制度が大事なのです。それが、これまではそのひとの人格的権利を保護し、ひとの意思を尊重するものでした。よく言えば、高邁な思想ですが、極端に言うと、お金は儲からなくてよい、というのが従来の日本の考え方だと思うのです。最近のデータで、日本はGDP比にして、著作権関連の収益が2.2%しかありませんが、アメリカは5~6%です。ヨーロッパも5%くらいと言われています。日本だって映画、漫画、音楽、それぞれかなり良いものがあるし、アジアの国では日本の映画やテレビ番組に人気がある。優れた漫画家や音楽家など広い意味でのアーティストはメジャーリーグで活躍する野球選手のように高収を得ていいはずです。だから著作権制度の考え方を根本的に変え、これをせめて欧米並みにしたい。そうしないと、グローバルな環境で文化的なコンテンツづくりをするひとが日本では育たないのではないかと危惧を抱いています。
先生が関わってらっしゃる私的録音録画補償金制度も関心を集めていますね。
この制度はテレビ、音楽両方関係しますが、たとえば音楽では、CDを借りてきてMDにコピーして聞く場合、法律上は一枚2円くらいの補償金を払ってコピーするという形になっています。ところが、iPodなど新しい機器間のコピーは、媒体が変わらないので無料なんです。それで著作権権利者の団体から補償金をかけるべきだという議論が出てきた。
この補償金の考え方というものは、保険制度に似ています。たとえば、その機器や媒体を買ってきた人が非常に安い金額を払っておいて、コピーする人はコピーをする。使わない人は無駄かもしれないがそれで生活が困るわけではないし、払ってもらう。そういう制度にするか、それともDRM(デジタル・ライツ・マネージメント)で、いちいち暗号技術を使って管理して個別に料金を取るか。どちらかを選ぶしかない。それを多数決で決めればよいのか?まだ議論の場はありませんが、これはグローバルな問題で、国際的に協調しながらやらなければならない。
それがまさに今、日本で争われています。この問題は、民主主義とは何かという問題に近い話しで、全員が幸せになる答えはないのです。私自身は、買った人が個別に料金を支払うのが理想だと思います。今はたとえばiTunesは1曲150円ですが、価格を10円以下に抑えられれば、それが理想だと思います。そういうことを幅広く議論しなければならない。
最後に、先生の考える「25年後」について一言お願いします。
私自身は、楽観的にものを見たいので、できるだけよりきれいで楽しい社会を予想したい。たとえば、社会体制、国の貧富の格差を乗り超えて、世界の人々が自由にやり取りできる。良い情報は共有し、悪い情報は抑える。そういうルールをつくっていきたい。それを、国連を中心につくるのか、それとも別の場所でつくるのか。個人的には、アジア連合をつくることを本気で考えるべきだと思っています。ヨーロッパはEUを通して、アメリカは一国でそうしたルール作りをしています。日本はどちらにも入ることができない。幸い中国や韓国などアジアの国々がどんどん力をつけていますから、EUに相当するくらいのアジア連合を将来はつくる。まずは東アジア辺りからメディアのあり方を議論するのが、25年先のテーマかなと思っています。実現するのはまた25年先かぁ…と、思いますけど(笑)
2008年6月4日 聞き手 事務局
第25回学会大会のお知らせ
第25回学会大会・総会は、6月14日(土)、6月15日(日)の2日間、駒澤大学を主催校として開催します。たくさんの皆様からのご参加をお待ちしております。(詳細はこちらから)
【バックナンバー】
第1回会員インタビュー 堀部政男さん(一橋大学名誉教授)に聞く「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」最終報告書