第4回は、情報通信分野の研究で活躍する西岡洋子さん(駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部准教授)と清原聖子さん(明治大学情報コミュニケーション学部 専任講師)のお二人をご紹介します。
2008年に、第7回ドコモ・モバイル・サイエンス賞奨励賞を受賞した西岡洋子さん、第24回電気通信普及財団賞テレコム社会科学賞奨励賞を受賞した清原聖子さんに受賞論文と今後の研究の方向性について伺いました。
清原聖子さん
西岡洋子さん
西岡洋子さん(駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部准教授)
「第7回(2008年)ドコモ・モバイル・サイエンス賞奨励賞」の受賞おめでとうございます。まずは、西岡先生のプロフィールを簡単にご紹介ください。
ありがとうございます。
東京女子大学文理学部社会学科を卒業後、財団法人海外コンサルティング企業協会経て、ペンシルバニア大学アネンバーグ・コミュニケーション大学院の修士課程でコミュニケーション論を学びました。その後、ニューヨークでIT産業担当記者を経験し、株式会社情報通信総合研究所に入社、そのままニューヨークのNTT America. Incで駐在員となり、帰国後、ブロードバンドコンテンツ、デジタルシネマ市場の調査、米国電気通信産業市場における通信と放送の融合および市場行動の変化に関する調査など、国内外の電気通信事業に関する研究に幅広く従事させて頂きました。また、同社に在籍しながら、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程に学ばせて頂き、現在は2006年に設立された駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部にて准教授として教育・研究活動を行っています。
今回の「第7回(2008年)ドコモ・モバイル・サイエンス賞奨励賞」は、2007年に出版された著書「国際電気通信市場における制度形成と変化」対して送られたものですが、この論文は「第23回電気通信普及財団賞テレコム社会学奨励賞」、「公益事業学会奨励賞」もあわせて受賞されていますね。
大変光栄なことに3つの賞をいただきました。研究者としてスタートが遅く不安を感じることが多かった自分にとって、やっと研究者としてスタートできると思えるようになりましたし、今後の大きな励みになりました。
「国際電気通信市場における制度形成と変化」についてすこし解説していただけますか?
ITU(International Telecommunication Union: 国際電気通信連合)を中心として形成されてきた国際電気通信制度の形成と変化の歴史を比較制度分析と国際レジームの概念を用いて、学際的に説明したものです。
ITUを中心として一元的であった国際電気通信レジームにおいて多元化が進行したのはなぜか?なぜ国際電気通信レジームは変化をしたのか?その疑問を明らかにするために、国際電気通信に関する制度状況を経済的だけでなく政治的制度なども併せて「国際電気通信レジーム」として把握し、その「制度変化」を限定合理性に基づくゲーム理論を応用する比較制度分析のアプローチで分析を行っています。
共時的分析では、独自でサブレジームという概念を導入し、現在の国際電気通信レジームがもつ三つの問題領域「資源配分」、「相互接続」、「不均衡是正」の存在を明らかにするとともに、ここにサブレジームが形成されていると指摘しました。
通時的分析では、全体的制度配置の変化における経済依存性を確認するために、電信発明以前の遠距離通信技術であった腕木通信の時代から歴史をたどり、「誕生期」「成長期」「安定期」「停滞期」「再生期」に整理しました。
分析の結果、国際電気通信レジームは、経路依存的に成長してきたものの、制度危機が起こったとき、制度の持続性が最も低い相互接続レジームから多元化が始まったことが見えてきました。国際電気通信レジームにおいてサブレジームの間に制度としての持続性の差が存在し、多元化の方向性および多元化の進行の程度はこれらのサブレジームの持続性の差に依存しているといえます。
現在の多元化状況を定着させつつある大きな要因のひとつが、インターネットガバナンス問題です。ITUではなくインターネット協会およびICANNなどの民間組織を中心に体制が形成されています。国際電気通信レジームの全体の効率性の向上という観点も含めて国際電気通信レジームにおける制度変化においてITUとこの新たな体制との関係は今後も注視する必要があります。
ドコモ・モバイル・サイエンス賞奨励賞に紹介された概要には「歴史研究として、過去の資料を的確に収集し、まとめている点を評価した。こうした研究は、後々の研究のためのベースとして役立つものと考えられる。」との評が出ていましたが・・・
もったいないお言葉だと思います。過去の資料を的確に分析した点を評価いただいていますが、これは、独自のサブレジームという概念を持ち込むことでその変化のメカニズムに説明を加えることができたから可能になったとの言葉も頂きうれしく思っております。
今後の研究はどのような方向になっていくのでしょうか?
理論と実証のバランスをとった研究に取り組んでいきたいと考えています。ネットワーク産業について進化という点に着目しながら比較制度分析を用いて、もう少し掘り下げて行きたいと思っております。また、もともとコミュニケーション論出身でありますから、このような視点も、どこかに生かせればと思っています。
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清原聖子さん(明治大学情報コミュニケーション学部 専任講師)
第24回電気通信普及財団賞テレコム社会科学賞奨励賞を受賞された清原聖子さんに、受賞論文と、これからの研究についてお話を伺いました。
まず、プロフィールを紹介していただけますか?
1999年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。2001年に慶應義塾大学法学研究科修士課程を修了、2004年3月に同博士課程を単位取得退学、2007年7月に母校から博士(法学)を授与されました。博士課程在籍中の2003年10月から東京大学大学院情報学環の助手(現助教)になり、2005年7月から半年間、アメリカのジョージタウン大学にフルブライト博士論文研究フェローとして留学しました。この留学中に関係者への多くのインタビュー調査を実施できたことが博士論文や、今回受賞した本の完成に大きなプラスになりました。2007年4月から2009年3月までは(株)情報通信総合研究所で研究員としてお世話になり、現在は明治大学情報コミュニケーション学部で情報政策論の教育・研究に従事しています。
「第24回電気通信普及財団賞テレコム社会科学奨励賞」の受賞おめでとうございました。
ありがとうございます。この本は博士論文をベースに若干の加筆修正を行い、大平正芳記念財団から出版助成を受け、2008年6月に慶應義塾大学出版会から出版されました。7年前に、同じ電気通信普及財団から「第17回テレコム社会科学学生賞」を受賞していたので、その延長線上でいつか単著を出版できた時に、と「テレコム社会科学賞」の受賞を目標に掲げてきましたので、夢が実現して喜びもひとしおです。
「現代アメリカのテレコミュニケーション政策過程~ユニバーサル・サービス基金の改革~」が受賞論文のテーマですが、内容を簡単に説明していただけますか?
この本は、アメリカのテレコミュニケーション政策を政策過程論とアメリカ政治研究の視点から論じたものです。今までアメリカのテレコミュニケーション政策は、経済学や法律学、メディア論から分析されることが多く、政策過程論から論じられることはあまりありませんでした。
本書は、政策過程論の研究として、政策案の段階から実際の政策や法律に至るまでの政策形成、政策決定過程、そして政策が成立した後の政策実施過程に関して、政治的資源に着目して新たなアクターの政策ネットワークへの参入とアクター間の相互作用の分析を行っています。
国家間での情報通信政策の違いの原因は、歴史的展開や市場メカニズムの違いに求めることができます。たとえば、ブロードバンド市場におけるケーブル事業者の占有率は、アメリカでは約50%、日本では約14%ですが、政策の違いは、そうした市場の差異から生まれるとも言えます。しかしアメリカのテレコミュニケーション政策の展開を正確に理解するには、市場の差異や一政策領域の中で起きるミクロ的な変化を分析対象とするだけでは不十分であると考えています。そのため本書の特徴は、マクロ的なアメリカ政治の動きとミクロ的なテレコミュニケーション政策との連関を重視している点にあります。たとえばイデオロギー対立のはっきりしているアメリカ政治においては、政権交代や、議会の多数派が変化することにより、大きな政策変更が起こる可能性が高く、これはテレコミュニケーション政策も例外ではありません。直近の例では、共和党ブッシュ政権時代には、テレコミュニケーション政策も自由市場や規制緩和と競争促進の思想に支配され、AT&TとSBCの合併のように、大企業同士の合併が進み、共和党委員長率いるFTCでは、ネットワーク中立性の規制化は時期尚早という立場がとられ、またFCCもブロードバンドの全国的な普及に関して政府が積極的に全国的な政策をとろうとはしませんでした。しかし民主党オバマ政権では、FCCやFTCの委員長が民主党に交代し、全国的なブロードバンドの整備やネットワーク中立性の規制の問題などで、政府がブロードバンド市場に介入する可能性が大きくなる、と関係者の間では見られています。このような政権交代というアメリカ政治全体に関わるファクターが、特定の領域であるテレコミュニケーション分野にも密接に関係しています。そのマクロとミクロの二つの連関に十分注意を払って分析を進めた点が、本書の大きな特徴になっています。
具体的に、取りあげているのは、1990年代のユニバーサル・サービス基金*の改革ですね。
テレコミュニケーション政策過程では、伝統的に独占的な業界団体や大手電話会社など少数者が決定権を握ってきました。しかし、インターネットが発達、普及してきたことで様相が変わってきました。遠隔医療、教育の情報化、デジタル・ディバイドなど周辺領域の問題が出てくると、これまでテレコミュニケーション政策にはほとんど無関心だった教員組合や、高齢者団体、図書館団体などが積極的に関与してくるようになりました。そうした新しいアクターの台頭が具体的な政策の成立と、政策の中身そのものに大きな影響を及ぼした点を1990年代以降のユニバーサル・サービス基金の改革過程を分析することで明らかにしました。
このことはユニバーサル・サービス基金に限らず、2005年頃から、ブロードバンド事業者が特定のコンテンツ事業者に対し差別的な取扱いを行わないように一定の競争ルールが必要だとする「ネットワーク中立性」の問題にも見られます。自分たちの団体の活動を行う上で自由な情報の流通を確保することが必要不可欠として、保守派のキリスト教連合がリベラル派のアドボカシー団体や全米図書館協会など多様な団体と手を組み、ネットワーク中立性の規制化を主張しているのに対し、大手ブロードバンド事業者は政府のブロードバンド市場への介入よりも、市場志向アプローチが結局消費者の利益になると主張してネットワーク中立性の規制化を訴えています。ネットワーク中立性をめぐる議論はまだ決着がついていませんが、インターネットの普及・発達により、これまでよりもさらに多様な利益集団がテレコミュニケーション政策ネットワークに参入し、そうした新たなアクターの表出する利益が様々な局面において、政策内容に大きな影響を及ぼすようになってきていると考えられるのです。
*ユニバーサル・サービス基金
ユニバーサル・サービス基金は、そもそも貧困層や過疎地域居住者向けの電話サービスを対象として始まった。しかし1996年電気通信法に基づき、その範囲は学校や図書館、過疎地のクリニックや保健センターにおけるインターネット・アクセスにまで拡大され、これらの公共機関へのインターネット・アクセス・サービスが割引料金で提供されている。
今後の研究の方向性についてお聞かせ下さい
研究課題については、大きな柱が2本あります。
まず、これまでの研究を発展させる形として、テレコミュニケーション分野における規制改革メカニズムの研究を進めていきたいと考えています。現在その一部として取り組んでいる研究テーマに、地上デジタル移行に関わる問題です。たとえば、ホワイト・スペースの問題のように、テクノロジーの急激な変化で新しい政策課題が顕在化しています。地上デジタル化を進めると空き周波数が生じますが、そこにどのような新サービスを展開するのか、という点から放送分野にGoogleやマイクロソフトなどが新たなアクターとして参入していることに注目しています。政策過程に彼らのような新たなアクターが参入し、既存放送事業者との利益対立が激化する中で、新たなアクターが放送分野の規制改革を推進する大きな役割を担いつつあります。
もう一方の研究の柱は、インターネット選挙運動についてです。日本では公職選挙法の解釈により、インターネットの利用が選挙運動に制限されていますが、アメリカではインターネットの選挙運動への利用に制限はありません。2008年大統領選挙を振り返ると、携帯電話のテキストメッセージやSNSなどの新しいコミュニケーション・ツールが多くの若者を動員することに大きな役割を果たしたと考えられます。現在私は、なぜ他の候補ではなく、オバマがそうした新しいテクノロジーを駆使して若者の動員に成功したのか、という問題、そして、なぜアメリカや韓国ではインターネットの選挙運動への利用が共時的に発展したのか、という問題を個人・共同研究、二つの枠組みで取り組んでいきたいと考えています。
(インタビュー担当:事務局)
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