デジタル知財のホープ金正勲氏に最近の研究とこの秋の国際コミュニケーション・フォーラムについて伺いました。
1.研究テーマについて
>金先生のいらっしゃるDMC統合研究機構というのはどういう組織ですか?
2004年度に慶應義塾大学のDMCプロジェクトが文科省の戦略的研究拠点プログラムに採択され、5年間プロジェクトで活動を始めました。デジタルコンテンツの創造と流通、利用といった一連の価値連鎖と関連する技術、表現、産業、そして知財をはじめとした政策問題を一つの研究機構が軸となり`統合的に考える`ということで、今の名称、デジタルメディアコンテンツ統合研究機構が付いています。今までもデジタルメディアやコンテンツに関する研究機関が存在していたかと思いますが、それらは特定の領域・部分にフォーカスしたもので統合的なものではありませんでした。しかし、デジタルメディア・コンテンツ領域というのは先程述べた技術、表現、産業、政策間での相互関連性が非常に高い分野であり、それらが調和・統合してはじめて社会、文化、芸術、経済的な価値が創出されるという意味では統合的に研究する機関が必要ではないか、というのが当初我々の問題意識で、それに政府が全面的にサポートするようになり、今日に至ったと思います。日本では世界でも最もスピードが早く、料金の低廉なブロードバンドインフラ、モバイルインフラが構築されているわけでありますが、それらをどのように活用するかというのが国家的な課題になっています。しかし、インフラの上を走るメディアやコンテンツに関しては知的基盤、人的基盤が強いとは言えない現状から、DMCが軸になって産官学連携を積極的に進めながら基盤強化のための活動を行ってきています。
>今、取り組んでいいらっしゃる研究テーマについてお話いただけますか?
今最も関心があるのは、これからの社会経済システムはどのように変容していくのか、そしてその中でメディアコンテンツを含む情報通信分野はどのような役割を果たしていくのかということです。それを技術、文化、産業、政策的な観点から研究しています。具体的にいえば、これからの時代は人間の創造性が価値創造の最も重要な資源であり、それを如何に最大限に引き出し、価値に転換していくかが国家、都市、企業、学校にとって重要になってくると思います。これを私は`創造社会`と呼んでいまして、創造経済、創造産業、創造企業、創造都市、創造性教育といった切り口でアプローチしています。
単に研究成果を論文としてまとめあげるだけではなく、社会にとっての実践的な価値創造のためのムーブメントを起こしていきたいと考えていて、ここ数年はそのための産官学のプラットフォーム構築に活動の軸をおいてきました。
>ムーブメントですか、新しいタイプの研究者という感じですね。
私が目指す学者というのは、未来に対する明確なビジョンを持ち、その実現のためのアクションを自ら起こしていく、そして一人の力で足りなければ周りを巻き込みながら力を強めていける行動する、そして力のある人間です。
私は学術的な問題を学術的に解決するということで完結するのではなく、社会が直面している問題を発見し、それを解決することに関心があります。その問題解決のために必要だと思うものであれば学問分野を問わず、関連する概念や理論は使うスタンスです。社会の上に学問があるのではなく、社会のために学問というのはあるのだと私は考えています。新しいタイプの研究者というか、異端児ですね。
>DMCで取り組んでいらっしゃるプロジェクトについてお聞かせください。
私がDMCで関わっているのは、デジタル知財プロジェクトと戦略的標準化人材育成プロジェクトの二つです。
デジタル知財プロジェクトは、デジタル時代の知的財産の在り方を研究するもので、主には著作権など知的財産権と関連する制度問題やメディア融合によって発生する産業問題、政策問題を扱っています。知財を単に財産権だけではなく、人間の表現活動の産物として経済を含む社会の様々な領域でその重要性を高めている資源として捉えています。特に、近年のデジタルネットワーク技術の急速な発展は人間の知の持つ可能性を大きく広げてくれたと思います。本プロジェクトは、フォーラムとリアルプロジェクトの二つの部分で構成されています。フォーラムは主に政策問題を議論する産官学プラットフォームで、今年はデジタル知財制度とメディア融合制度に焦点を当て、ワーキンググループの開催や政策フォーラムの開催等の活動を行っています。一方、後者のリアルプロジェクトには様々なリアルなプロジェクトが走っていて、デジタル技術を活用して子供の創造性を高めることを目的とするデジタルキッズプロジェクト、デジタルネット時代の新しい広告モデルを実験するデジタルサイネージプロジェクト、IP技術を活用したデーター放送を実験するIPデーターキャストプロジェクトなどが代表的な例です。
一方、戦略的標準化人材育成プロジェクトは、標準化を戦略的に考えられる人材育成を目標とするプロジェクトです。技術標準化分野において日本は優れた技術を持っていながらもその技術が持っている潜在的な価値を最大化するには必ずしも得意とはいえないのが実状です。技術標準化はその典型的な例の一つです。標準化分野においてこうした現状を打破するには、研究開発、知財、そして標準化戦略を大局的な観点から統合的にそして戦略的に思考出来る人材、また国際的な交渉の舞台において活躍できる人材の育成が不可避で、本プロジェクトではそうした人材はどういった力量が必要で、そうした力量を身につけるためにはどういう教育方法(カリキュラム)が必要なのか、を研究することを目的としています。
2.第25回国際コミュニケーション・フォーラムについて
>金先生は10月31日、11月1日に開催される第25回国際コミュニケーション・フォーラムの実行委員ですが、フォーラムの主旨について、わかりやすくご紹介いただけますか。
今回、情報通信学会設立25周年を記念し、世界からキーパーソンを呼んで「グローバル化する情報社会と情報通信の変容」をテーマに国際コミュニケーションフォーラムを開催します。もともとInformation Society (情報化社会) というのは日本発の概念です。私がアメリカで博士課程に所属していた頃に、「Origin of Information Society=情報化社会の起源」というセミナー授業を取ったことがあります。それまで大学院での授業の中で、日本人が書いた論文を読む機会はほとんどなかったのですが、同セミナーの中では、前の情報通信学会会長の伊藤陽一先生とか増田米二先生という日本の学者の書いたものが一つの概念的な起源として使われていたということが私は大変印象深かったです。今回25周年を記念して、日本発の「情報化社会」というのが、日本だけでなく世界の中でどういった展開を見せてきたのか?そしてその中で情報通信技術というものはどういった役割を果たしてきたのか?またこれからグローバル化する情報化社会というものはどういったものになっていくのか?ということについて議論していくのが今回シンポジウムの主なテーマです。いわば、過去を総括するとともに、未来の展望を一緒に考えていくというのが主旨です。
>金先生がコーディネートされる第2セッションはどのようなものになるのでしょうか?
日本と韓国において情報化社会というものがどういう風に誕生して、どういう風に変容してきたのか。韓国のキョン先生と日本の内海先生は、特に1980年~90年代において、韓国と日本の情報通信政策を決めていく上で極めて大きな役割をはたした方々です。日本と韓国の情報化社会を進めるにあたっての政府政策とその経緯をお話いただき、今後の両国における情報化社会の展開についてパネリストの皆さんと議論することが主な目的です。
>ファイナルセッションは「情報社会の未来は開けるのか?」となっていますが、金先生の考える「情報社会の未来」についてお聞かせください。
今までの情報社会というものは、情報を作る者と情報を利用する者の間で明確な境界が引かれていた断絶の時代だったといえますが、ここ数年、Web2.0に代表されるようなユーザー主導の動き、つまりユーザーが単に情報を消費する主体ではなく、自ら情報を作りだして、相互に共有する、それを利用するといった、みんなが主人公になる時代が開かれつつあります。これは技術が発展したことで可能になった部分も大きいのですが、その技術が創りだす可能性を可能性に終わらせず、社会にとっての価値に転換するには人間の知恵が求められます。その知恵というのは、一人の頭の中で生まれる場合もありますが、多くの場合、人間同士の相互作用、コラボレーションから生まれます。私が産官学プラットフォーム構築に力を入れている理由も、こうした異なる主体が未来設計に向け、共に議論し協力し合うことで、より高度の知恵が生まれてくるのではないか、という信念があるからです。
>フォーラムの見どころはズバリどこにありますか?
日本発の情報化社会というものが世界の中でどうように展開されてきたのか、そしてどのように展開されていくのか、その中で我々は何をすべきなのかを議論出来る場であり、そのために世界の産官学からファストクラスの論客を集めることが出来たと自負しています。ぜひ多くの方が参加され、過去、現在、未来を共に考える二日間に出来れば嬉しいです。
(インタビュー担当:事務局)
第25回国際コミュニケーション・フォーラム
第25回国際コミュニケーション・フォーラム「グローバル化する情報社会と情報通信の変容」が、10月31日(金)、11月1日(土)の2日間、開催します。たくさんの皆様からのご参加をお待ちしております。(詳細はこちらから)
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