会員インタビュー ?研究最前線?

 

第6回は、「間メディア社会研究会」主査の遠藤薫さん(学習院大学法学部教授)をご紹介します。

遠藤写真  情報通信学会では現在15の研究会が活発な活動を行っています。今回は、昨年の衆議院選挙での調査など、社会の注目が高まる「間メディア社会研究会」主査の遠藤薫先生にお話を伺いました。

 

――遠藤薫先生は「間メディア社会研究会」の主査をなさっていますが、「間メディア社会」というのはどのような概念なのでしょうか?

遠藤 メディアと社会の関係については、時代によって、新聞の時代、テレビ時代、ネット時代などという言葉で語られてきました。しかし、テレビの時代と言われた頃にも、新聞もラジオも口コミもあったわけです。当然、ネットの時代といわれる現在も、いままであったメディアにネットが追加されたということです。つまりメディアは単純に交代するのではなく、次から次へと積み重なってきているのです。そして積み重なることで情報は厚みを増し、深まっていくと考えるべきなのです。私は、その積み重なったメディアの相互関係を「間メディア性」と呼び、その働きが活発化している現代の社会を「間メディア社会」としてとらえるため、「間メディア社会研究会」を立ち上げました。従来の対人コミュニケーション、新聞や雑誌などの印刷メディア、そしてテレビや映画などの映像メディアに、ネットが加わってそれぞれのメディア間で情報がやり取りされる時代が現代です。その結果、情報の流通量が格段に増え、関わる人が増え、意味の深みがましていく社会が、「間メディア社会」なのです。そして、重要なのはそれらの積み重なったメディアが相互に大きく影響し合っていることです。

――メディアが積み重なり、影響し合う社会が「間メディア社会」ということですね。

遠藤 間違えないでいただきたいのは、「間メディア」は、これまでもよく言われてきた「マルチメディア」や「クロスメディア」などの概念とは異なることです。「マルチメディア」はひとつのコンテンツにどれだけのメディアを組みあわせているかということですし、「クロスメディア」はあるコンテンツをさまざまなメディアに載せることによってそのコンテンツの価値を高めようということです。「間メディア」は、どうしようという意図を働かせるのではなく、いまのメディア社会の状態を考えるスタンスです。

――「クロスメディア」などが戦略的であるのに対して、「間メディア」は観察・分析的な立場ということですね。

遠藤 そうです。我々がそういう社会に生きていることを考えていこうという立場です。

――その「間メディア」の視点から、昨年の衆議院選挙の報道の分析をなさいましたが、その調査の意図と調査の結果として何が見えてきたのかを教えてください。

遠藤 「間メディア社会」では、実際にはいろいろな情報が絡まり合っているので、なかなか分析し辛いのですが、まずはできることからということで、選挙報道の分析をしました。選挙での世論の動きは、メディア間の影響が見えやすいといえます。そこで新聞での論じ方、テレビ、ネットでの論じ方を、時間軸に沿って定量的、定性的に調べました。まず新聞、テレビ、ネットの情報の動きを個別に分析し、次に同じ時間軸に並べてその相互関係を観察しました。それにさらに世論調査、意識調査を組みあわせて、各メディアの論じ方およびそれらの全体が、実際の人々の意識にどう関係しているのかを分析しました。ただ、関係していることはわかるとしても、どのメディアの論じ方が影響を与えたのかは、判断がなかなか難しいところです。いわゆる相関関係は検証できても、因果関係は原理的に判定できないということです。

――個人にとっても、考えは変化したとして、どのメディアの何が影響していたのかは、決めにくいものです。でも、相関関係では何か見えてきましたか。

遠藤 まだ分析の途中ですが、いま感じているのはメディアの報道は「ズレている」ということです。昨年の衆院選では、有権者は政策重視だったことが意識調査からわかっています。各党が出したマニフェストを新聞やテレビが報道して論じ、それをまたネットが論じているという構図なのですが、まず報道量の推移が新聞とテレビではかなりズレています。さらに有権者に「何を重視しましたか」と尋ねた結果もまた新聞やテレビの報道量とはかなりズレていました。ネットに関してはブログと2ちゃんねるを観察したのですが、ユーザー層の関心事のちがいによって、ここにもある程度のズレが観察されました。
興味深いのは、選挙戦の途中で「酒井法子事件」が起こったことです。新聞ではこの事件についての報道は少なかったのですが、テレビはすごい量でした。しかし意識調査をみると、人々は酒井法子事件なんかどうでもいいという結果が出ています。ここには、もしかするとテレビの人々の関心事に対する見誤りがあるのかもしれません。ちょっと反省していただきたいと思います。

――ネットの記事は新聞社、通信社、テレビの報道へのリンクというかたちで、出てくるわけで、それに賛同や批判ということでブログや2ちゃんねるに意見が出てくると思うのですが、ネットでの意見開示にどんな特徴が見えましたか?

遠藤 面白かったのは、従来ネットは新聞に批判的で関心が低いと思われがちなのですが、政策の報道量とネット上の議論の量を比較してみると、テレビよりもむしろ新聞の報道との類似性が強いことがわかったことです。ただし時系列で計ると新聞とネットが似ているのですが、選挙期間中の総量で計るとテレビとネットが相似しいるということもわかりました。一方、意識調査では、新聞との相関が高いという結果が出ています。このあたりのズレがどういう意味があるのかは、もう少し綿密な分析をしないとわかりません。ただ今回は複数メディアの動きとその影響を調査したという実験的な試みをしたことで、まだ入り口ではあるものの、「間メディア社会」の研究が一歩前進したことは確かだと思っています。

――「メタ複製時代の文化と政治~社会変動をどうとらえるか2」(勁草書房)などのシリーズをはじめ多くの本を書かれていますが、今回の選挙に関する調査も、本にまとめられるのでしょうか?また今後のテーマについても教えてください。

遠藤 はい。5月頃に「間メディア社会と選挙過程」というタイトルで本を出す予定になっています。この本は、昨年の総選挙に焦点を当てて間メディア社会について研究をしたものです。今年は間メディア社会の進化に伴う、ジャーナリズムの変化に注目したいと思っています。昨年の学会大会で「間メディア社会とジャーナリズム」という研究会を開き、非常に活発に盛り上がったこともあり、こちらにまた力を入れたいと思っています。ジャーナリズムは大きく変化せざるを得ないのですが、ジャーナリスト個人が発言するかたちが多くなるのか、それとも何らかの組織、たとえばユニオンやNPOになるのか、あるいは既存の組織をもとにしたものになるのか、まだほとんど見えていません。そのあたりについて考えたいと思っています。また学会内に限らず社会的にジャーナリズムがどうなるのか危機感が高まっています。意見を求められる機会も増え、3月22日にはNHK総合の『激震 マスメディア??新聞とテレビの未来』という生討論番組にも討論者として出演しました。夜10時台に1時間半の生討論というのは非常に珍しい形式でしたが、放送記念日特集ということで大変に力の入った番組でした。画期的な仕掛けとして、番組のツイッターにリアルタイムで寄せられるコメントやメールを随時紹介しながら議論を進めました。膨大な数のコメントが寄せられ、嬉しい驚きでした。また、この番組放送中に、ustreamでは『劇笑 マスメディア』という裏番組(?)が流され、また2チャンネルでは数多くのスレが立ったということです。若い人たちのなかでは、テレビの生討論と、ustreamの裏番組と、2ちゃんねるやブログなどを同時並行的に視聴し、書き込みをしたりしていた人も多かったようです。期せずして、まさに「間メディア」的なメディア利用の形態が浮上してきたといえるかもしれません。

――ネットの浸透で「間メディア社会」は、社会のさまざまな分野で注目度が高まっています。6月の学会大会でも研究会を開いていただくことになっていますが、今後の「間メディア社会研究会」の研究・活動に大いに期待しています。

 

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